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佐木島という「遠い場所」で建築を学ぶ / Learning architecture in a "distant place"

Archived verbatim from note.com on 2026-06-02 for provenance durability. PRIMARY source; cite by key nfa5944d79f02. Published 2025-04-02 19:09 by 河野直 (Nao Kono), 一般社団法人 The Red Dot School. (This essay is Japanese-only on note.com.)


Sagishima Short Program(ワークパーティ)のプログラムが終了した。5日間で、民家の漆喰塗りや、解体材の整理、床の根太掛けなどを行った。漆喰塗りワークショップは、左官職人の金澤萌さんを迎えて行った。改修の舞台は、RDSの学生ドミトリーである住福の家である。昨年譲渡を受けてから、初めての改修作業だった。約2日かけて、一階の大部屋や小部屋、廊下の一部の壁に漆喰を塗った。

左官作業を終えた翌日、佐木島に住むあるおばあちゃんが「あのお家に漆喰塗ったんじゃねえ。いいことじゃねえ」と声をかけてくれた。おばあちゃんは、私たちが、私たちの家の補修をすることを、やさしく褒めてくれた。それは取り留めもない会話だった。しかし、その時のことを振り返ると、不思議な気持ちになる。

というのも、私たちが壁の補修をしたのは、島の方々が使う場所でも、来島する観光客が楽しめる場所でもないのだ。私たちが所有し、私たちが使う場所なのだ。それでも、私たちが私たちが所有する家を直すことを、おばあちゃんが自分のことの様に喜んでくれて、褒めてくれたのはなぜだろう。

考えが巡る。私たちが、私たちの家だと思っている場所は、もしかすると、私たちだけの場所ではないのかもしれない。建物や、場所、空間は、誰のものでもないのかもしれない、住居すらも。私たちが普段揺るぎない信頼をおく所有という考え方は、もっと、しなやかなものであってもいいのではないか。

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私たちは、日常と異なる環境に身を置く時、日常では当たり前とされてきたことに意識を向けることがある。そして、その価値を再評価したり、疑問を持って考え始めることもできる。

このことは、私たちが佐木島という地でThe Red Dot Schoolとしての建築教育活動を行う重大な理由の一つだ。日本や世界各国のそれぞれの環境で建築を学ぶ学生がこの島に集まる。各々の環境には、各々の日常がある。

佐木島は、参加学生の誰にとっても「遠い場所」だ。外国から海を渡り、東京から西へ向かい、佐木島へ渡る。初めて日本に来る学生も多い。日本で学ぶ学生にとっても、本島から橋のかかっていない佐木島は、船に乗らなければ上陸することができない離島だ。

しかし、旅路を経て佐木島に渡った途端、各々が日常を過ごしてきた場所は海の向こう側にある「遠い場所」として映る。佐木島で日々を過ごす中でふとしたときに、各々の日常を、遠くから眺めはじめる。日常では当たり前だったことに意識が向いたり、その意味を確かめたり、時にはその意味について疑うこともあるかもしれない。学んでいた場所が全てではないと、気づくかもしれない。評価や競争といったものも、それぞれの環境にある価値観によるものに過ぎないと気づくかもしれない。だとすれば、本当に大切なことは何なんだと、考え始めるかもしれない。

ワークパーティの1週間、スタジオの2週間という期間は、「遠い場所」にあった佐木島がもうひとつの居場所へと変わるに十分な時間だ。だから、進学しても、社会人になっても、いつでも帰ってくることができる。実際に多くのOBOGが、何度も佐木島に帰ってきてくれる。帰ってくるたびに、日常をまた遠くから眺め、納得がいくまで、考えを巡らせればいい。考えるのに疲れたら、海をみて頭を空っぽにすればいい。

「遠い場所」を持つこと。それは、人が何かを学び、豊かに生きていく上での、コツの様なものだと思う。The Red Dot Schoolは、日本や世界のどこかで真剣に学んでいる誰かを、佐木島という「遠い場所」へと招く存在であろうと思う。そして、はるばる来てくれたからには、何か新しい気づきや問いを抱いた彼らを、各々の日常へまた送り出せるよう、力を尽くしたいと思う。

河野直

**現在、2025年5月スタジオの第二次募集を行っています。ページ下部には日本人学生向けのご案内もあります。**